オレンジの輪郭だけが残る街基点として置く黒いサンダル
(おれんじのりんかくだけがのこるまちきてんとしておくくろいさんだる)
水槽に飼っているのは空ろだと少女はビーズをぱらぱら降らす
(すいそうにかっているのはうつろだとしょうじょはびいずをぱらぱらふらす)
みひらいてみひらいて朝魚のまま夢に浸かった半身をぬく
(みひらいてみひらいてあさうおのままゆめにつかったはんしんをぬく)
明け方の星座を指でなぞるとき誰かが棄てたオルゴールは鳴り
(あけがたのせいざをゆびでなぞるときだれかがすてたおるごおるはなり)
かたぐるま星屑ひとつふくませて父しか知らぬ神話を聞く夜
(かたぐるまほしくずひとつふくませてちちしかしらぬしんわをきくよ)
はばたきを書き留めている或る夜に誰かが落とす小さな痛み
(はばたきをかきとめているあるよるにだれかがおとすちいさないたみ)
雨音がきこえる窓のない部屋で罰せられない罪に埋もれる
(あまおとがきこえるまどのないへやでばっせられないつみにうもれる)
いくつかの言葉を浮かべ沸点に届いた水を空へ還す日
(いくつかのことばをうかべふってんにとどいたみずをそらへかえすひ)
繰り返す夏の終わりを告げる歌掛けっ放しのワンピースゆれ
(くりかえすなつのおわりをつげるうたかけっぱなしのわんぴいすゆれ)
なまりいろ綻びはじめ雷雨来る指紋だらけの人形を抱く
(なまりいろほころびはじめらいうくるしもんだらけのにんぎょうをだく)
種をのむ、いつかすみれの原になることを夢見るわたしの洞へ
(たねをのむ、いつかすみれのはらになることをゆめみるわたしのほらへ)
ふれぬようふれられぬよう遠く来て有刺鉄線越しの夕焼け
(ふれぬようふれられぬようとおくきてゆうしてっせんごしのゆうやけ)
夕焼けを剥いでしまえば真っ白な世界に戻れそうな気がする
(夕焼けをはいでしまえばまっしろなせかいにもどれそうなきがする)
夜空から白熱灯は消えてゆき熱を持たないひとと繋ぐ手
(よぞらからはくねつとうはきえてゆきねつをもたないひととつなぐて)
喉元にくちづけたはずやわらかな葉脈ひとでなくなるあした
(のどもとにくちづけたはずやわらかなようみゃくひとでなくなるあした)